1062.
今日も思う、何故私はまだこんな下らない生を生きているのか、と。そしてまた何時もの様に悪態を吐く。それでお終い。この時必要なのは心機一転か、それとも金か、それは状況によって異なるが、大抵は後者で事足りる。事程左様に私は下らない生を生きているのだ。


1063.
今目にしているものが長い長い進化の結果であると考える。それが今置かれている状況から、その行動について合理的なメリットの存在すると云うことを推論する。宇宙に於けるこの一事象の取り得る意義と関連性について思いを巡らす。その動きに見られる構造の見事さを思い出そうとする。それと私との間に成立する幾重もの関係をひとつひとつ解きほぐし、そこから余計な偏見を捨象しようと試みる。私と云う内宇宙に於けるその取り扱われ方を吟味し、正確な距離と意味を掴もうと努める。———だがダメだ、どれだけ頑張ってみたところで、今目の前で打ち殺したくなる位盛んに吠え立てているこの犬野郎は、やっぱり打ち殺したくなる程吠え立てている只の犬だ。この不愉快さに禅的な深みを見い出そうとしても、こうやかましくバウワウやられては「知るか、そんなこと!」と怒鳴りたくもなろうと云うものである。


1064.
私の口元に浮かぶ冷笑を非難する者が居る。じゃあ何か? 喜びいっぱいにこの下らない世界を両手を広げてその儘迎え入れろとでも言う積もりか? 生憎と、私はそんなことが出来るほどトチ狂ってはいないのだ。私の笑みは然るべきものに対して捧げられるべきであって、そして少なくともこれはそうではない。


1065.
或る眼差しに返される別の眼差しが有る時、それは常に非対称な構造を持っていることを心せよ。他者が覗き込む目は他者を覗き込む目とは異なる。この一点をついうっかり忘れでもしようものなら、いざ深淵を覗き込んだ時にその真の深さを大きく見誤ってしまうことになる。勘違いしてはならない、我々自身のみで成り立っていると思い込んでいる場に於てさえ、我々は常に自らを見失い得るのだ。


1066.
過去の過ちから何も学ばないでいる国民は、現在の過ちについて何も気付くことが無い。こんなことでは、未来でもっとましな世代が育つことだろうと期待することなど無理な相談である。


1067.
宇宙が今正に大爆発を起こそうとしているその時に、私の人生なぞに一体何の意味があると云うのか………。この物言いに隠れている二重の矛盾に昔から腹が立った。結局私がどれだけ知恵を捻りだしてみても、やはりこの難問は解けないことが最初から分かっていたからだ。ならば不完全へと至るその滑稽な道程には、一体どんな意味があるのか………。不器用にクレヨンで塗り絵を塗り潰して行く子供の様に、私はまだこの問い(答えではない)を完成させられないでいる。
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