1000.
御誂え向きの激情に飛び付く。一通り発散し、生の強度がそれで増した様に思う。中身などどうでもいい、単思い出さえ残れば。そうやって一時凌ぎを積み重ねて行く内に、そうしたものこそが真の生命の発露であると取り違える。オメデタイことに、死ぬか脳が軟化するまでずっとそう思い込む。連中の生き様とは詰まりそう云うものだ。


1001.
夏! それは生を謳歌する季節! だが御丁寧なことに死と腐敗まで込みでぞろぞろ付いて来る! しかも何が楽しいのかそのことを全身全霊で以て私に説得しようとする! そんな訳だから、私が先刻からゲラゲラと白痴じみた笑いを立てているのは、別に私の頭がおかしくなってしまったからじゃない、この夏と云う季節そのものがそもそも極く極く気違いじみているのだ。


1002.
己が生が失敗作であったことを悟るのに、早過ぎると云うことは無い。*

*但し詰まらぬ輩に関してはその限りではない。


1003.
連中が私に対してした理不尽な仕打ちについて驚くには及ばない。何時の世も、反抗的な奴隷と云うものは磔にされるものと相場が決まっている。所有主の方にしてみれば、自分の万能感を脅かす存在が恐ろしくて堪らない筈であるし、奴隷仲間の方はと云えば、自分達と同じ様に卑屈に媚び諂わない者を見掛けるや否や、自分達と同じ惨めさにまでその者を引き摺り下ろそうとする殆ど本能的な衝動を発揮したがるものなのだ。


1004.
そこらに転がっている二束三文の恐怖に君を怯えさせるな。無理かも知れないが痩せ我慢しろ。


1005.
私は自分と折衝するのが精一杯で、いちいち他人 (ひと )様に分けてやる様な「私」は持ち合わせてはいない。そんな私を人は傲慢だと言う。そうかも知れない。だが、只の行き擦りの他人にそんなことを要求して来る連中の方がよっぽど傲慢ではないだろうか?


1006.
何故私の肉体はこんなにも重いのか。加齢によって散々貯め込んで来た穢れがたっぷり詰まっているからだ。こうなるともう汚物の塊が歩いている様なものだ。
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