0954.
失われてしまったものしか愛するに値せぬ、手の届かぬものしか追い求めるに値せぬ。後は何れもこれも些事。


0955.
豚の様な幸福。ひとつの超越も無しに全てを受け容れること。たまに出る言葉と云ったら日々の餌が不味いか美味いか、足りているか足りていないかについての不満のみであること。生を憎んでい乍ら半狂乱になってその檻をぶち破ろうとしたりはせずに、餌の続く限りそこで満足すること。


0956.
関係に於て成立する情報の遣り取りとしての宇宙の像には、何処までもしつこく認識論の悪夢が付いて回る。もう少し器用な人間であればそれを特定の状況のみに限定して話を絞り、そこからまたより一般性の高いものへの突破口を開く為の非常に狭い条件付きの説明を考え出すのだろうが、私は何分にも不器用で、全か無か、でしか考えられない様なところがあるので、唯々その過剰な多様性に圧倒され、心奪われ、呆然となるばかりである。


0957.
国家安全保障:国民の自由と引き換えに貰えるカジノチップ。


0958
何事も引き際が大切だ。90分のコメディ映画なら人々は喜んで観るだろうが、休憩無しで3時間も観せられるとしたらどうだろう? 人々を笑わせようと云う努力が涙ぐましいものとして前面に現れ、やがては三文悲劇と化さずにはおれない。一方悲劇の方は幾らでも延々と続けられることは続けられるが、こちらも余り長過ぎると、これまた笑えない喜劇へと落ち込んでしまう。


0959.
顕微鏡下のこの、非物質的なまでに鈍重さから解き放たれた、完全に調和の取れた美の世界………。


0960.
振り返ってみるに、私の書く文章は主に抵抗から生まれる。面罵も嘲笑も無言の威圧も無くずっと放し飼いの状態を続けていたら、私は語るべき何事をも持たなくなってしまうだろう。私は言うなれば、腹を押すとガァと鳴くアヒルの人形の様なものだが、幸か不幸かこのガァガァは当分止むことは無さそうだ。


0961.
この世にはまだ生きている人間は凡そ次の二種類に大別出来る。言い訳を既に手に入れた者と、言い訳を考える振りをして時間稼ぎをしている者と。
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