0906.
物理的にどうかはともかく、その生活態度に於て量子コンピュータの様に生きる。全ての想定可能な生を予め生き尽くしてしまった。
0907.
何等かの形式と呼べるものを備えているあらゆる詩に対して、我々は、イスラム教徒がコーランに対して採っている様な態度で臨むべきである。即ち、如何なる言語によってであろうと、それを翻訳したものは、それに関するひとつの解釈を示したものに過ぎない、と。問題なのは意味ではなく配列だからである。既知のものを組み合わせて新しい形を、新しいリズムを作り出すこと、通常はノイズとして処理される所に別の言語を見い出させること、それこそが詩の本分であり、言葉を用いた魔術の勘所である。
0908.
鏡を見る、そして逆上する。
0909.
少しばかり年を取って、私も少しばかり処世の知恵の実践に磨きがかかった。日々、聾に、盲に、そして饒舌になってゆく。
0910.
懐古:厚かましく気の触れた者が行う後悔。
0911.
斯くも馬鹿気た茶番に長々と付き合わされ、終幕の時間すら明らかではないと云うのに、何故地球上の全人類が今直ぐにでも発狂してしまわないのかと云う疑問に長年考察を巡らせて来た結果、次の様な深遠にして明々白々なる真実に私は逢着した。この地球上には二種類の人間が居る。私、即ち着実に狂いつつはあるが、まだ完全に狂い切ってはいない為に、未だ正気に成れるかも知れないのではないかと云う未練がましい希望をずるずると引き摺っている者と、私以外の全ての人間、即ち、既にもうすっかり狂ってしまっていて回復が全く見込めない者とである。
0912.
何十分も鏡を覗き込む女達。彼女達がその場で怒り狂ってその鏡を叩き壊したり、笑い過ぎて腸捻転を起こしたり、絶望の余り首を縊ってしまわないのは何故だろうと考える。そして突然、彼女達が見ているのが表皮であることに、外見だけであることに、上っ面だけであることに気が付く。成る程、確かにこれは深い知恵だ。例えば世の科学者達はもっと女性達から学ぶべきでないだろうか。