0895.
この世の中が狂っていると云うことにどうしても確信が持てない場合は、新聞を読んでみることをお勧めする。それでもダメな時には、テレビで国会や証券取引所の様子を見てみるといい。それでもダメならもう手遅れと見ていい。ここまで解り易い例を目にしても何も感じないのであれば、君が正気に戻れる見込みは先ずゼロだろう。


0896.
間違った場所に生まれて来てしまったのは確かだ。だが、では「正しい場所」が何処なのかと問われると、これが丸ッ切り見当も付かない。私があれやこれやと益体も無い空想を巡らせて、それが少しでも具体的な形を取り始めるや否や、私をこの偏狭な支流の一地方から連れ出してくれる当の同じ想像力が、小鬼めいたニヤニヤ笑いを浮かべてけたたましく笑い声を響かせ乍ら、手に持った小賢しいハンマーで片っ端からそれを叩ッ壊してしまうのだ!


0897.
ものを考えるには不向きな季節になって来た。要するに、私は一塊の腐肉に成る。


0898.
一切の意味はコンテクストの中で決定されると云うこと、これはプラトン主義者達に対する反証たり得るだろうか? とんでもない、まだコンテクストの成立そのものと云う大きな謎が控えている。


0899.
また不採用通知を受け取る。これでまた、私が相手方の望む奴隷人形には成れなかったと云う証明書がまたひとつ増えた訳だ。どうせこんなものを送り付けるのであれば、私が生まれる時に出しておいて欲しかった。


0900.
一切の具体的な行動に対する私の疑念は最早私にとって不可欠の属性の様なもので、以前は例えば一足の靴を買う為に靴屋へ入り、二時間近くも延々店内をうろついて決めあぐねた挙げ句、結局何も買わないで出て来るか、或いは仕方無く一番最初に目を付けたものを選んで買って来る、などと云うことが良くあったものだ。私にとっては、どれを選ぼうと大して違いは無かったからだ。だが、あれから年を経て私も太々しさの知恵と云うものを少しは身に付けた。一切の悩みがこんな調子だとするならば、何事も真剣に悩むには値しない。それぞれのコストを計算し、どうでも良いことは適当に決める、と云う方針を実践するのは、何事も可能な限り楽な方法でやるべし、と云う私の嗜好と信念に能く適うものである。
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