0888.
物理学者のではなく、自然哲学者の書いたものを読みたい。パズル解きではなく問答がしたい。探偵ではなく探究者でありたい。切り取られた宇宙とではなく総体としての世界と向き合いたい。仮令扱っている対象のスケールがどんなに大きかろうと、下請けの職人とではなく内省する術を知った思索家と話したい。地面ばかり見詰めていて、池の水面に映った星の姿だけで満足するのではなく、自分で首を上に向けて頭上に広がる星々をこの目で見たい。


0889.
その「ドイツ文学者(おかしな言い方だ!)」と話していたら、「人は死んだら何も無い、灰になるだけ」と云う様な意味のことを言った。実に詰らない。「死なんてものは存在しない。俺が認めない」位の傲慢さがすっと出て来ないのに、ドイツ人の書いたものを理解することなんぞ出来るものだろうか?


0890.
一切の形は何等絶対的なものではない。それらは迷妄に過ぎない。但、我々がその迷妄から覚めることが決して無いと云うだけである。———畜生! だからどうだって云うのだろうか? 結局は同じことではないか!


0891
何事につけ確信犯的な態度を第二の天性として身に付けてしまっているのではない相手とは、何を話しても会話が上滑りしてしまう。かと云って、一寸でもそんな素振りを見せる相手に出会そうものなら、今度は途端に何を話して良いか判らず口籠ってしまい、深刻そうな振りをするか、疲れたニヤニヤ笑いを浮かべるか、どちらかで誤魔化すしか無くなる。


0892.
私の欠点を指摘して来る相手なんぞを前にしては、仮令それが一箇の石ころに過ぎなかったとしても、とても平静ではいられる訳が無い。座して自分が欠落だらけの欠陥品であることを告げ知らされるよりは、一刻も早いこの身の消滅を希う方がまだマシである。但しその時は、この円満から程遠い世界全体も道連れにしてやらなければ気が済まない。


0893.
官僚と云うものは、成り立ての頃は一日一時間しか眠ることを許されない生き物であると云う。それを聞いただけで、世の中を少しでもまともにしようとする努力が斯くも容易く水泡に帰してしまうのは何故なのか、大凡 (おおよそ )理解出来ようと云うものである。


0894.
健康保険制度:国民に絶えず自分達の明日の健康について思いわさせることによって、恒常的に心理不安を維持させておく為の制度。
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