0853.
哲学研究者、或いは、哲学者研究者、或いは哲学研究者研究者、或いは哲学者研究者研究者は、須く、専門家でなくてはならない。だが、専門的な哲学者程詰まらぬ者はそう居るものではない。そんな人間は、一生涯部屋の壁のシミを一つひとつ数えて暮らす狂人の様なもので、生え抜きのオタクやマニヤの方がまだしもマシと云うものである。存在に自ら対し、その無限の妙味を味わう為には、人は古代ギリシャの賢人達の様に多様でなければならない。いやはや「研究」などと云うものが始まった途端に、全てがおかしな具合になってしまった。


0854.
 「おいおい、こんな所にこんなもの置いとくなよ」
 「済みません、うっかり作ってしまったのはいいんですが置き場所が無くて。何方か面倒を見てくれる方がいればいいんですが」
 「おう、そんなら、下請けで良けりゃ俺がいいとこを紹介してやらんでもないぜ」
 「おやそうですか、それは助かります。じゃあお願いしてみようかな」

   他人顔の男と造物主との間に交わされたこんな会話の結果、世界は今の様な有り様と相成ったと言う。


0855.
人類が今現在も一秒も休まず行っているこの途方も無い浪費に思いを巡らせると、一瞬気が遠くなりそうな気分になる。これでは確かに、「白痴の語る物語」だ。何処か他の星から遣って来た宇宙人が、地球のことを流刑地か精神病院か何かだと思い込んだとしても、成る程無理からぬことである。


0856.
例えば「やあ、お久し振り。最近どうしてます?」と聞かれて、咄嗟に答えることが出来ない。最近? そう、最近は………相も変わらず食べて、寝て、呼吸して、金を稼いで、様々な本を読み、誰も読まないかも知れない文章を書き散らし、自分と折り合いを着けるのに失敗し続け、何時も呉越同舟の様な気分でこの宇宙に取るに足らないちっぽけな座を占め、この無限の多様性に対する渇望を無限小とも言える限られた関係性の中にあって諦め切れていない………だが、相手が期待しているのはそんな答えではない、それは分かっている。だから何とか愛想笑いを浮かべて、今の自分の状況はどんなものだったか思い出そうとする………相手の怪訝な表情にも気付いてはいるのだが、何しろ直ぐには出て来ない。ええと、相手の名前は………こんな時の話題に必要な局面と云うのは………それに私の名前は何と言ったっけ………?
 こんな時、撮影中の映画俳優ならば笑い出すことが許されるのかも知れない。だがこの舞台は常に舞台裏などと云う余地を許容してはくれずに四六時中本番が進行中で………。


0857.
全知に成りたいなどと、莫迦な空しい望みを抱くものではない。自分に出来る限り正気に成ろうとすること、それだけで君にはもう充分だ。この果てしの無い巨大な万華鏡の煌めきを前にして心を閉じず、尚且つ錯乱しないでいるように努力すること、それだけでもう充分だ、充分だ。


0858.
人並みの幸せと云うものについて考えてみる。人並みの無知に安住していられる鈍感さについて。………駄目だ駄目だ、人は自分に出来もしないことを試みたりするものではない。
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