0784.
退屈とは要するに、この世界に対して私の頭脳のキャパシティが大いに不足していることを示す兆候に過ぎないのかも知れない。結局のところ私は、一日中食べ物探しに追われていた穴居人とそう大して違わないのかも知れない———そう呟いて自分を慰めてみ、励ましてみる………それが効を奏するにしろしないにしろ、鼻から漏れ出てしまう冷笑ばかりは如何ともし難い。


0785.
存在の過剰と釣り合いを取る為に書く。当然乍ら満たされぬ作業は無際限に続く。一切が非在の風景の中に溶け込んで行くことの目撃証言をする為に書く。だが、それは私がどう仕様も無く実存し続けていることを確認する結果にしか終わらない。永遠に対して疎隔されていることを罪と呼ぶのであれば、恐らく私は罪人なのであろう。その溝は埋められない。可能性の一様態として、私が、この今の私ではないのだとしても、枚挙させられた宇宙に於ては、溝は溝として残る。またそうでなくては枚挙したことの意味が無くなる。従って私は、「手が届かない者」であり続ける。書くことはそれに対する一種の誤魔化しか慰めである。だから書くのは私が書くこと以外のものにすっかり呑み込まれてしまう前に手早く行わなければならない。
 今日も私は書く。空語が口を突いて出る。ペンがそれを自動的に書き留める。どう仕様か、私はまた途方に暮れている。


0786.
眼差しを意識せよ。眼差しを常に(詰らぬ言い回しに惑わされるな)意識せよ。と言っても具体的な誰かの眼差しではなく、それらが世界の眼差しへと昇華するよう努力せよ。四六時中見られていろ。それで気が狂ってしまうのであれば仕方が無い。君は主体としてその次の段階に進む能力が無いと云うことだ。その上でその全てを受け容れよ。矛盾を恐れ、嫌悪せよ。だがそれに留まるな。先へ進んだら振り返ってみよ、そして振り返ったら必ずまた先へ進め。際限無く広がる地平に視線を向け、焦点を合わせていろ。突然大地を裂いて現れる大裂溝の深淵に目を閉じるな。余りの多様さを前に逃げ腰になるな。ひとつであれ。在るが儘であれ(こう言われていることの文脈を意識せよ)。混乱せよ、そして考え、秩序付けよ。形を掴み、色を着けよ。


0787.
真なるもの———つまり、普通は隠れているか余り明白ではないが、何等かの綻びがきっかけとなってその絶大な力を誇示する輝きとしての性格とは、通常、厚く着込まれた性格の下から反発して来るものの謂いである。だが勘違いしてはならないのだが、作用無くして反作用は起こり得ない。闘争を抜きにしては何も生まれない。因果の後先を無視して勝手に根源性のヒエラルキーを想定してはならない。


0788.
何を今更。我々は売り物だ。ま、精々商品価値が下がらないように祈っておくことだな。
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