0779.
勘違いしてはならないのだが、35億年の生命進化の歴史に於て、理性だとか複雑な自制能力、個体の唯一性が尊重され、肉体的・心理的苦痛を能う限り軽減すべく社会的・心理的な規制に多大な努力が払われている社会形態と云ったものは、極く極く最近になって発生して来たもの、つい昨日どころかたった今出来たばかりの代物に等しい。であるから、進化の過程がその長い歴史の上に積み上げて来た測り知れぬ程の知恵の成果が、ぽっと出の異端児の気に喰わぬことが間々あるのは当然のことなのだ。だがその時注意しておかなければならないのは、合理性には異なる幾つもの次元がある、と云う視点を確保しておくと云うことだ。世界を安易に無秩序で不合理なものと即断してしまう習慣を身に付けてはならない。この宇宙は確かに訳の分からないことだらけで謎に満ちてはいるが、その場の思い付きで自らの認知的限界を決め付けてしまってはならない。


0780.
 小学生の時には、競争なんてものはそれが有ることさえ知らなかった。
 中学生の時には、ゲームの様な感覚でそこそこ楽しんだ。
 高校生の時には、最初はともかく最後にはその余りの馬鹿馬鹿しさにほとほと呆れ果て、それでも何とか外面だけ合わせることを覚えた。  大学生の時には、そんなものは一切気にせずに自由にやった。
 学校を出てからは、自分は競争向きの人間ではない———少なくとも、世間一般が否応無く押し付けて来る類いの狭苦しく不愉快な競争には向いていないのだと改めて自覚した。

   今でも私にとって世間は全く不可解なものによって支配されている。他人の視線ばかりを気にして自分と向き合うことが出来ない———そんな人生に一体何の意味があろう。


0781.
また言葉が涸れ果ててしまった。最早私を満たすべき何物も存在しない………では今紡がれて行くこの言葉は何だ! また深い溜息が漏れる………。


0782.
何の感慨も無く私は書く。延命処置を施す様に。何の為だ? 目的なぞ無い。〈現在〉の形がその儘そう在り続けようとすること、認識を形で以て支えようとすること、その盲目的な衝動に従って、白痴の様に私はペンを動かしているだけだ。意義? あるとも。少なくとも自分がヒト以外の動物ではないことが確かめられる。見通し? 無いね。死ぬまで生きなければならぬのと同様に、この波の揺れ戻しもまた予定されたものではないのだから。最後の最後まで付き合わされることになるのだろう。


0783.
原理的にではなく実感として、何処まで行っても私、私、私、私の風景しか見えないと云う日もある。そんな時に夢魔に襲われるのは嫌なものだ。夢魔に喰らい尽くして貰うことだけを思い詰める様になる。一気に爆発させてしまうか、何とかその混乱を赦す努力を続けてみるか、ひたすら耐えるか、或いは何もかもうっちゃらかして頭から布団を引っ被って割れそうな頭を眠りによって押し潰してしまおうとするか。何れにしても楽な解決法と云うものは無い、気が狂うより先に時間が流れて去って行ってしまうことを秘かに希うのみだ。
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