0771.
知性による厳しい吟味を経ていない愛は、その一切が欺瞞である。そして、それが時には理性と真っ向から衝突することがあることを、人は心しておかねばならない。愛される対象に対して自らを捧げ開く時、自分が何処に向かおうとしているのか、常に問わねばならない。そして一度結論が出た様に思えても、再度問うことを、問い掛け続けることを恐れたり、面倒に思ったりしてはならない。没入するのは容易いが、その向こうに自分が何を見ているのか、惑わされてはならない。君が経験するのは殆どが未知の体験となるが、驚きに打たれてばかりで目を開いておくことを忘れてはならない。世界のノイズに耳を澄ますだけの余地を、君の心の中に残しておかねばならない。欠落は不完全さ、真の完全からの離反、即ち悪であり、それに安住すること、即ち忘却は罪となる。君がひとつの愛を選ぶ時、同時に選択することになる悪がどんなものなのか、心に掛けておかなければならない。全て一度の認知も経ていない悪は、その儘消えずに悪の儘で留まり続け、赦されることも和解することも無いのだ。目を見開いて逸らすな。幻滅や屈辱を恐れるな。仮令君の魂が根本から引き裂かれて悲鳴を上げようと、怠惰な幸福の中に逃げようとするな。知ることは君の義務だ。問い掛けることは君の本能だ。気をしっかり保って、涙と挫折のその先へと足を進めるのだ。


0772.
粗悪な神の代用品に癒される位ならば、私は寧ろずっと苦しみ続けることを選ぶ。自己に忠実であるとはそう云うことだ。私の中には未だ閉じられた儘の扉の鍵が隠されている。自分から進んでそれを投げ捨てたり他人に呉れてやったりする様な真似が、一体どうして出来ると云うのか。


0773.
君の中にある多くの声に耳を澄ませてみよ、そうすれば、今君の探している答えが如何に小さなものであるかが判る筈だ。小さな問い掛けには小さな答え、君に持てるのはそれっぽっちの声だけなのか。君も所詮は有限的な存在だ、限定された状況の中で限定された答えに一時安らぐのもいいだろう。だが新しい一撃が来た時、君の世界は次の局面に備えて開かれていなくてはならない。


0774.
仮令変人呼ばわりされようが、野蛮人と軽蔑されようが、時代錯誤と苦笑されようが、詰らないとそっぽを向かれようが、私は私以外の者には成れないし、私の中から生まれて来ないものは何ひとつ書けないし、書きたくもない。私は金の為に自分の魂を売り渡す積もりは無いし、また他人からの注文次第で何にでも成ってしまう職人にも成りたくない。私は私に対して忠実でありたいし、徒らに魂を枯らせる様なことを、(たまになら気分転換にいいかも知れないが)したいとは思わない。私が真に生きるべきは私の中に、そしてその先にあるのであって、他人から押し付けられたり恵んで貰ったりするものではない。
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