0742.
(どの程度正鵠を射ているのか自分でも測り難ねているのだが、まぁ思い付きと思って聞いて欲しい。)生の強度のみを問題とし、他は全て没価値也と断ずるニーチェやハイデガーの様な心理至上主義の発想は、何も突然異端児として生まれて来た訳ではなく、行動の具体的な結果よりもそれに至るまでの動機付けの方を重要視すると云う姿勢は、既にして世界宗教化を遂げたキリスト教の中に存在していた。エクハルトやゾイゼ、少し下がってシレジウス等のドイツの教父達は、そこから我と神との関係のみに集中し、他の人間の存在の意義と云うものを度外視した———少なくとも、その後世に与えた影響に於てはそうだ。神秘思想家達の場合は、依拠すべき神と云う存在があったので、個々の場合に於て実際どうだったかはともかく、彼等の集中力は神を介して世界へ、万物へ、他の魂へ、心的風景へと広がって行く為の契機は持ち合わせていた。だがそうした契機を持たなかったニーチェやハイデガーには、強度への志向、上昇する力のみが残された、神が人の精神に於て生まれ、人が神と成ると云う思想は、元々没社会的なものであったのだが、それがルターによる破壊の時代を経て、教会制度と云う制約を外され———制度と云うものは意味の無かった所に形を与え、無根拠なものにそれ自体で意味を持つ様にさせると云うことだ———「神」と云う、元々一種の言い訳めいた収束点を失った時、そこに暴徒の可能性が生まれたのではなかろうか。肝腎なのは、超越的存在と云う次元の異なる求心点を失った彼等が、結局は現世の中に新しい神話を求めると云う、一種の退化を行わざるを得なかったと云う点だ。神は人が作り出したフィクションではあるが、それが無くなった時、人はまた別のフィクションをそれに置き換えて空白を埋めようとする。


0743.
昨日書いたばかりの原稿を紛失してしまった。子供を流産してしまった母親の気持ちとは、これに似たものなのだろうか。


0744.
結婚:最も普及している売春の一形態だが、男性客の方はこれによって従順な小羊であるとの公的な認定を受ける為、奴隷検定制度をも兼ねている。娼婦が単数の客と長期間契約を結ぶ形態を基本とし、娼婦が性的サービス、ペット、場合によっては家事サービスを提供するのに対し、男性客は多額の金、社会的庇護、自尊心を支払う。


0745.
妻:ヒトの成体のオスを宿主とする寄生虫の一種。


0746.
夫:奴隷の一種だが、他の種と異なり、自分の主人に対して金銭を支払わねばならないのを特徴とする。


0747.
背後に何も無いことから来る焦燥、前方に何も無いことから来る焦燥。未完の儘で終わってしまった人生。私の代わりに死んでくれる無数の物語達。
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