0705.
実存に関する説明は、それら全てが飽く迄過渡的なものであり、次へ進む為に利用すべき階梯の一段一段なのだと心得てさえいれば、仮令それらが一時的に専制状態を展開しようとも全く問題無い。寧ろ、各段階を徹底して押し広げてみなければ、何故次の段階なるものに進まねばならないのか、その必然性が充分には理解出来ないだろう。


0706.
世の中のことを何ひとつ知りはしない癖に腕っ節だけは一人前のワガママなガキ大将が、何事も拳で問題を解決しようとするのは別に驚くには当たらないが、そいつにくっ付く腰巾着がこれ程までに多いのは実際、驚くに値する。時々、ひょっとしたらおかしいのは実は自分の方で、何かとんでもない勘違いをしているんじゃないかと疑いたくなる気分も解って貰えるだろう。だが忘れてはいけない、余程のことでもない限り、君と同じ良識を持つ人間と云うものは必ず何処かに存在していて、確かに聞こえ難いかも知れないが、それでもやはりそのことについて声を上げているのだ。要は耳を研ぎ澄ますことなのだ。それも出来るだけ効率良く。良識はまだ絶滅してはいない。そのことを心に留めておけ。


0707.
魂の深淵を覗き込んだことの無い者*———それを私は押し並べて「大衆」と呼び、私とは違う種類の生き物であると見做す。

*「以前経験したことはあるが、今はすっかり忘れてしまっているだけだ」と云う言い訳は凡そ不可能である。器質障害でも患っているのでもない限り、唯の一度でも魂の深淵を覗き込んだことのある者であれば、その者が一個の精神として存在を続ける限りその最後の瞬間まで、その驚愕と恐怖を忘れられよう筈は無い。


0708.
国民の代表であり全体の奉仕者である筈の政治屋共と、その批判・監視機構である筈のマスゴミが、どうしてこう揃いも揃って想像力の欠如した低能だらけなのか、私は知らない。だがそんな連中でも、理不尽なまでの給料を貰えるのだから、そんな連中を選んでしまう有権者兼消費者達は、途方も無い底抜けの大馬鹿揃いと云うことになる。どっちもどっちで世話は無い。


0709.
私に誠実な対話を望むのであれば、先ず鏡を見てからにしてくれ。


0710.
既得権益の主張、或いは一時的に失われている既得権益の主張は、フィクションとしてであれば幾らでも描いたって構わない。情熱 (パッション )と云うものがその語からも判る様に本来的に受動的 (パッシヴ )なものである限り、過去にこそ真実があり、故地への帰還こそが救済や回復への道を拓くと云う発想は別段異常なことでも何でもない。自分の心のそうした部分を、時には或る程度満たしてやるのも、全体的なバランスを構築・維持する為には必要なことである。だがそれが目の前の現実に対して先行していると本気で信じ込んでいる連中などと云うものは、唯々醜悪なだけである。現在は過去から作られる、と云うのは極く真っ当な常識的な物言いではあるが、実存的な観点から見れば、事態は全く逆なのである。過去を作るのは現在であって、現在が過去を自らに先行するものとして同定するからこそ、過去は過去たり得えているのである。
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