0665.
先ず、訳も分からずに襲い掛かられる。次いで、一歩身を退いて己を規定する為の焦点を定めようとする。とそこで、存在するものは只そこで凝っと存在し続けるのではなく、常にその瞬間瞬間に生成するものであると云うこと、従ってそこからは不可避的に変化が導かれると云うことに思い至る。その変化の質を見定めようとする。その変化が「成長」と呼ぶものに相応しいものである為にはどんな側面を取り上げなければならないか熟考する。大概、そこで直ちにそれが具体的な行動へ結び付いてくれる場合はいい、後は成り行きに任せて同様のプロセスを繰り返しておればよい。だがそこで一旦立ち止まって考えること自体に夢中になってしまい、見ること自体に魅せられてしまうと、後はもう抜け道を見付け出すのは非常に難しくなる。その時私は嵐に巻き込まれた俳優である、同時にその嵐を観客席でポップコーンでも食べ乍ら凝っと見守る観客である。しかもその舞台と観客席は、両者とも更に大きな顎の中に在る。


0666.
行為の結果よりも動機や意図を重視すべき時を間違えてはいけない。また、行為の量よりも質や強度を重視すべき時を間違えてはならない。また非常に多くの人々屡々陥りがちな過ちなのだが、この両者を取り違えてはならない。知性を常にそこに介在させること、言い訳の裏にあるものを常に意識しておくこと。


0667.
言葉の遣り取りにではなく、唯臨在のみにて満足を覚えることを学ぶこと。音楽にではなく沈黙の中で満ち足りて在ることを学ぶこと。形に囚われぬこと。然して〈今〉の普遍性を知って*いること。

*「確信」ではない。


0668.
廊下に嬌声が響き渡る。あのけたたましい笑い声は一体何を正当化するものなのだろう。火元が年頃の少女ででもあった場合には、その一声ひとこえは、裂けた綻びを繕う為の縫い糸の一目ひとめなのだと云うことは判る。だがその針の先は実に残酷無情で容赦を知らない。


0669.
Q.さて問題です。あなたが政治家であるとして、次のどの順番で優先的に神経を配列すればよいでしょうか。

 (a)頭→舌→拳
 (b)舌→拳→頭
 (c)拳→舌→頭
 (d)舌→拳
 (e)拳→舌


0670.
決断することへの恐怖———世界が、私の選択によって取り返しのつかない変化を被ってしまうことへの恐れ———失われてしまった世界への責任の重圧———程度や質の差はあれ、全ての一瞬一瞬が、そうした分岐点であると云うこの途方も無い事実に対する驚愕———既に失ってしまったもの、これから失われるであろうものの莫大さに対する眩暈———こうした主体、若しくは主体を成し得るもの私の他に何十億どころかそれこそ数え切れぬ程今現に存在していると云う事実への深い深い疑惑と困惑———それらに対する私の責務———それでも失われてしまう世界に対するどう仕様も無い無力感———。
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