0633.
BGM:静寂恐怖症患者が屡々中毒に陥る麻薬。消費活動が盛んな一定の場所に於て蔓延するが、その際、相手を全く選ばないのが特徴。


0634.
一体私の何が原因となっているのか当人としてはさっぱり見当が付かないのだが、私はどうやら他人に対して無根拠の有能さを感じ取らせてしまう傾向があるらしい。*例えば、私が今日の夕食は何にしようかなどと考えている時や、或いは単にボーッとしているだけの時でも、これはきっと何か深遠な思索を巡らせているに違いない、と勘違いをする輩が何故だか後を絶たない。私としては、出来ればその逆の方がやり易いのだが、世の中上手くいかないものである。
 序でなので弁明しておくが、比喩的に言えば、私は、今日の夕食の味はどうだったかと云うことは日記に書くかも知れないが、いちいちそのメニューまで細かに記したりはしないタイプの人間である。人々が私の影に期待しているのは、果たして書かれた方のことなのか、書かれなかった方のことなのか。

*これは主に視覚的な接触を果たした場合のことで、音声のみなどによる接触の場合はこの限りではないらしい(多分)。


0635.
一言誰かに向かって口を利きさえすれば、アッと云う間につまらぬしがらみの中に絡め取られる世界に私達は生きている。今更そのことにうんざりする若者が現れたからと云って全く驚くには当たらない。そもそもそんな中で発狂しないでいること自体が極めて異常な事態なのだ。


0636.
気が付くと世界は何処かへ失われてしまっていた。だが私が今探しているのはその世界ではない。もっと広く深く高く、沈黙を呑み込んでも充分な程大きな世界だ。


0367.
歴史書、或いは人類のこれまでの歩みを綴った書物を読んで一度でも憤りを覚えたり呆れたり嘆いたりしたことのない者は、もう何を読んでも全くの無駄である。さっさと狭苦しい日常に舞い戻って、1日も経てばもう読む価値もなくなるものばかり読んでおればよいのだ。そうした人々にも当然生きる権利位はある、だが出来るだけ私の目に付かない所に居て欲しいものだ。


0638.
あんなに頑丈そうな拘束衣で自分を雁字搦めにしておき乍ら、何故連中はあんなに薄気味悪い程にニコニコしているのだろう。
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