0584.
営業マン：故障したスロットマシンが仮面を着け背広を着て人の形をしている様に見える様になったものの一種。主に市場主義経済に寄生し、懐の中には常に複数の仮面と着脱式の舌が用意されており、法に抵触しない程度のペテンで生計を立てているのが特徴。最も簡単に追い払う方法としては、徹底して金を持っていない振りをし続けるのが一般的である。
0585.
プロ：利潤を上げることを言論・表現の自由より優位に置く人々、または、自分の気持ちより他人の顔色の方を重視する人々。疎外された労働者の進化したもの。
0586.
昨夜私を涙させたバッハの曲は、壮大な受難曲でもなければ厳かなカンタータでもなかった。単
の地味なコラールの小曲だったのだ。その時まで、確かに私は何かを聴き逃していたのだ。酷く重要な何かを。だがそれをどうしても思い出せない。成る程、贖罪とはこうした時に必要な感情なのだと、今身を以てその痛みに耐えているところだ。ところが一体何に対して何の赦しを請えばいいのやら、私にはさっぱり判らないのだ。
0587.
大きな人格的弊害については居直って平然としていられるのに、そそっかしいことから来るうっかりミス、些細な失敗には、反射的に言い訳を考えてしまう。どうしたって、私の精神が、私の実人生に於ては詰まらぬことにしか向いていないと云う事実を、再三思い起こしておかねばならぬと云うことなのだろう。
0588.
金を稼ぐ為か、暇を潰す為———最終的にはあらゆる動機がそこへ行き着く………そんな世界に住み続けている者が、まともな神経を維持していられる訳がないだろう。それらの空ろな言い訳が、どうやったら我々の飢えた魂を満たせると云うのだろう。
0589.
店：売り物が売り物を売る場所。一歩でも中に足を踏み入れると、人間である以前に客と店員であることを求められる恐るべき無法地帯。
0590.
空：人間を地球の地表にへばりつけておく為の被い。夜になると星と云う小さな光の粒が表面を覆うことがあるが、これは時として人間に地表にへばりついていると云う事実についての苦い認識を齎す効果を持つ。最も効果があるのは都会の空である。
