0571.
降り込める恐怖に圧倒されるな。永い永い時空の旅の果てに君が見ることになるものは、旅を始める前に君が見たどんなものよりも素晴らしく輝いている。


0572.
摂取する為ではなく、所有すること自体を目的として本を購入することがある。別にそのこと自体が悪い訳では無論ない。だが、そうした買い方をすることに対して罪悪感を覚えさせ、恥じ入らせる本と云うものが時に存在する。


0573.
念を入れて周到に準備を整えている間に、一切合財が終わってしまう………自我とはつまり、そうした過程の中で不様に転がり回っているもののことの謂いだ。


0574.
お腹はグウグウ言っているのに全く食欲が無い時がある。お腹はもうパンパンで胸がむかついてさえいると云うのに、もっともっと何か食べたい時がある。これが文字通り個人の食事についての話であれば、そこには自ずと生理的な限界と云うものが付いて回る。だがこれを比喩として捉えた場合………。


0575.
悍ましい顔に烙印を捺す。その悍ましさを正当化する為だ。だがまだ足りない。まだ全然足りない。


0576.
どもる様にしか喋れない。継ぎ接ぎ細工の様にしか書けない。二歩歩いて一歩躓いてよろめく様なつっかえつっかえでしか先へ進めない。だがそれでも自己嫌悪する以上に私は愚鈍なので、今日も何とか生きて行かれる。


0577.
私の日常生活に於ける細かな欠点を知っている人間には我慢がならない。だから出来るだけ愛想笑いをして御機嫌を取っておいて、私が一刻も早い相手の消滅と忘却とを熱心に願っていることを悟られない様にする。だがそれでも時には人に知られていたいと云う根強い欲望がしゃしゃり出て来て、ぽろっと口を滑らせてしまうこともある。そして私は益々その相手の存在を疎んじる様になる。斯くして溝はどんどん深まる一方と云う訳なのだ。
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