0493.
自分の退屈の歴史的/社会的な母集団を先ず真っ先にどの項に求めるか、それによって、その人のお里も或る程度まで知れようと云うものである。


0494.
こんなつまらないことどもに贅言を費やしていてはいけない。詩人か文学者かと思われてしまう。


0495.
私は疾っくの昔に座礁した船だ。座礁して動けぬ儘、凝っと頭上の月を見上げているのだ。唯一の慰めは、今この月を見ているのは全世界中自分だけで、他の者は皆その月の光に照らされたものを見ているに過ぎない、と想像することだ。だがしかし、自分が見ていると思っているこの月も、実は静かな水面に映った月の影に過ぎないかも知れない、と云う懸念が胸を過ることがある。そして私はその懸念が正しいことを知っている。そこで私は、その水面の月の影目掛けてどぼんと飛び込み、可能な限り何処までも深く深く潜って行くのだ。


0496.
根源の欠如を確認する為に行う歴史の研究と云うものがある。これによって我々が、自分達が無根拠の存在であると云う確信にそれらしい説明を少なくともひとつ与えることが出来る様になる。外面には、飽く迄逆のことを行っている様な振りをするのが、上手くいくコツだ。


0497.
寝不足は、存在の希薄化の大きな要因だ。今日は殆ど何も書けなかった。


0498.
生まれてしまったら可及的速やかに死へと赴くこと、と云う古人の知恵が何故全く有効活用されて来なかったのか長いこと不思議だったのだが、最近その答えのひとつと思われるものを見付け出した。人々は、死を手に入れる方法を知らずに、唯虫けらの様に死んで行っているだけなのだ。死を浄化し、昇華し、変貌させ、対話し、狂わせ、笑わせる方法を全く知らないのだ。


0499.
多様な意見の自由な交換が民主主義の大基本原則である様に、一個の人格の中にも、多様な声達の存在を認めてやらなくてはならない。どれかひとつにこだわり過ぎても碌な結果にはならない。「個性」などと云うものはその共存状態の中から自然に生まれ出て来るまで放っておけばよいのであって、殊更にそればかりを追い求めるのは、要するに自分からファシストになりたいと言っているのと同じことである。………殊に、世間一般で言われている「個性」なるものの偏狭さ、卑小さ、つまらなさを考えてみれば。
inserted by FC2 system