0458.
西洋文明の根幹を成すもの———と当時は考えた、と云うより、先へ進む為の手掛かりとしてそれ位しか思い付かなかった———としてのキリスト教を、内部から理解する………そのことだけの為に、私は教会に近付いた。世界をひとつの統一されたものとして見ること、あらゆる場面、如何なる細部にまでも同一の眼差しが降り注いでいること………それを実感として理解することが、まだティーンエイジになりたての内向的な醜い少年にとって良かったのかどうか。実際、世間並の規準から言って、より無知である方が幸福を掴み易いからだ。少なくとも、自分が満たされる為にどんなものを相手にしなければならないか、それを思って戦かずに済む。無知による戸惑いや漠然とした違和感は、知による恐怖と絶望に比べれば羨ましいと云うものである。


0459.
私と風景との間に立ち塞がる障害物としての他者を私は嫌う。殊に、主体の希薄な益体の無い薄っぺらな言葉の応酬に私自身が巻き込まれた時はだ。自動化した日常と云う関係性は、言葉と云うものに強力な世界の遡及点となるだけの力が秘められていると云う事実を、いとも容易く忘れさせてしまう。


0460.
程々にロマン主義的である人間だけが、そこそこの「人間らしい」幸福を得られる。後は獣か神かどちらかに流れるしかない。


0461.
シニカルであることとユーモア精神を持っていることは時として非常に区別がし難い。だが、シニカルであろうとユーモア精神を持っていようと(しかし言い難いな、このふたつは)、形振り構わずどうしようもなく、私は私でしかない………こんなのが答えではいけないだろうか。私もいい加減疲れているのだ。


0462.
人間一人ひとりが、人類の可能性を広げ、選択肢を増やし、多様性を拡大する義務を負っている………他の大多数の者と違っている者は、特に。


0463.
憎むなら、世界全体を憎むことだ。安易にあれこれを憎んでしまうのは、まだまだ想像力が足りない証拠だ。


0464.
数十秒単位で姿を変える雲と、数十億年単位で姿を変える超銀河団、両者の間に一体どれ程の違いがあると云うのだろうか。あの夕陽が沈み切るまでに幾百もの銀河が生まれそして消滅したと考えてもいいし、ふたつの星雲がぶつかり美しいひとつの螺旋模様を描いている内に、一片の夕立ち雲が流れていっただけと考えてもいい。どのみちそれ程違いは無いのだ。森羅万象一切合財は皆、瑣細なことである。
inserted by FC2 system