0336.
私はあの石ころだ。あの石ころが私だ。あの石ころが痛がれば私もまた痛いし、私が呻きを上げれば全世界が崩落する!


0337.
さようなら、巨大な顎が大口開けて私を待っているんでね。


0338.
〈原理〉によって彫琢され、掘り抜かれ、浮き上がらされた顔———それこそが私の唯一真実の顔であって、他のは皆影の影に過ぎない。………しかし〈原理〉の鑿の及ばない所が唯の一層とそもそも有る筈があろうか。


0339.
「理性的であるとは、即ち市民的であることである」。賢帝アウレリウスのこの品はあるが果てし無く凡庸*なこの言葉は、恐らく正しいのだろう。魂のもっと昏い領域を扱うには、「理性」と云う語は些か健全に過ぎる。

*「果てし無く凡庸」とはこれまた面白い表現だ。それこそ凡庸な警句のひとつでも作れそうな言い回しだ。


0340.
回想する為に生きること、何時か書かれるかも知れない(恐らくその可能性は極めて低いにも関わらず)自伝に尤もらしい一文をもうひとつ付け加える為に現在を生き延びること———もう何年もそう云う生き方をして来たので、未来にとっての過去と云う以外での意味に於ける現在と云うものについての明確な直観は、どうやら私を見捨てて何処かへ去ってしまったらしい。


0341.
独創性の欠片も無いだけでなく、更に見るからに愚かでもある言葉を吐いてしまった後で思う、過去と云うものを空白にし、薄目を開けて、未来だけをぼうっと眺めていようとする私の性向には、充分な正当な理由があるのだ、と。尤も、投げ捨てた筈の過去に日々苦しめられていなければ、こんな負け惜しみめいた言葉を弄さないであろうと云う自覚が、この恥にまた上塗りをすることになるのだが。


0342.
打ち負かし、征服し、克服すべきものとしての絶望と、馴れ、妥協し、何とか付き合てゆくべきものとしての絶望………やれやれ! 盛大に溜息のひとつも吐きたくなとうと云うものだ!
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