0311.
十一か二の前の私は、何だか得体の知れない陰気で騒がしい生き物だった。十四の頃までは世界が世界に、私が私に成り始めていたのだが、何分にも大分混乱していた。それから十六の頃までにはあらゆることについてすっかり答えを出してしまって最終的にはそれを口に出して認め、それからはじっくり下準備を進め、二十になる一月位前から数年かけて、私は次第に私ではなくなっていった。以来私は待ち合わせの時間までの無為を懸命になって潰そうとし続けている。


0312.
呪詛もいいだろう、恨み言も構わない。
 だが決して、非難してはならない———公民としてではなく、実存としては。


0313.
私は十六の時までに世界のことをすっかり知り尽くしてしまい、自分の人生を生きてしまったので、それ以来ずっと老人でいる。


0314.
数多ある私の癖のひとつに突発的な鼻息があるが、昔は嘲笑や冷笑に極めて近かったそれは、今では寧ろ溜息に近くなっている。


0315.
普段は他人のことなぞどうでもいいと云う風に暮らしている私ではあるが、それでもやはり他人の眼差しに対して通奏低音の如くにしつこく強烈に感じ続けている欲求がふたつある。なるべく多くの人々———出来れば、その評価が一聴に値する様な人々———に知られたいと云う欲求と、他人から見て裸ではいたくない、一箇の謎でありたいと云う欲求だ。これら一見矛盾するふたつの欲求を和解させるのは割合簡単だった。一箇の謎として広く知られる様になれば良いのだ。実に私らしい下衆っぽさではないか………。


0316.
紙面を埋め尽くした悪筆の囈言 (たわごと )を見返してまたあの感覚に襲われる………結局、還って行くのは何時もそこなのだ、「こんなことをしたからと云って、一体どうなると云うんだ?」


0317.
私が乱暴に書き散らした数々の愚劣なことどもにも、一寸でも笑えそうなものが、くすりと笑うのか鼻先でフンと笑うのかはともかく、皆無と云う訳ではない。でなければそれこそ救われない。
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