k-m industry
0255.
貧乏人がバカだと云うのは或る意味本当だ。だがそれらは互いの必要十分な条件ではないし、またバカが貧乏の全ての原因だと云う御託を述べる連中には顔を洗って出直して貰いたい。それは脳細胞の生長には妊娠期間や発育期に於ける充分な栄養が欠かせない、と云う単純な事実から導かれる当然の結果なのだ。貧しい者の多くが、自分で人生の選択肢の存在に気付くだけの想像力と知性とを持たない様になってしまうのは極く当たり前のことであって、これは天災でも先天的なものでも何でもない。
 こうした主張を裏付けるデータを齎してくれるのは、近代西洋的な基準を用いた知能判断であるが、これに文化だの民族の独自性だのを唱えて反対する者に対して私は強力に異を唱える。現代に於て、それに何等かの形で適応しなければ(或いはもう少しソフトで丁寧な言い方をすれば、自分達で適応の仕方を選べる様な能力を持たなければ)、他の者に食い物にされるだけなのは目に見えている。人間は、動物とは違った存在の仕方をするべきなのだ。他人のペットや家畜の地位に甘んじているだけとは別の生き方があるのである。文字を読み、自分の置かれている状況について一歩退いた立場から考えることを知らない者は、それを選択し実行する為の機会を、一生涯奪われた儘になる。教育と貧困と飢餓は一体のものであって(無論これに健康問題を付け加えても構わないが)、どれかひとつを解決すればそれはそれで済むと云うものではない。


0256.
話を単純化する為に、世界を変えるふたつの方法について話そう。ひとつは、内面の変革、これは今直ぐその場ででも可能であり、至上の栄光と沈黙はこれによって齎される。もうひとつはもっと地道な方法で、社会環境や労働条件、富の配分方法や言論の自由の確保(言論発表の手段と機会の確保も含む)等々の改善への努力によって齎される、外的な、他人と共有してゆく世界の着実な前進。
 私が問題視するのは、後者の非常な遅れによって前者が不可能となっている人間が余りにも多いことだ。明日どころか今日の糧の心配をしている者に、星空を見上げてみろと言ったところで無駄な話である。言葉を掴む前に、腹を満たさなければならない。そして腹を満たす為には、その前に先ず語りかけてみるしかない。*
 情けない話だが、人類はこの「カネ」と云うものの言語道断なまでの無軌道な発展増殖に合わせて自らの規律を進歩させては来なかったのだ。既に手遅れなのかも知れない、だがこれ以上症状が悪化する前に何とかしなければならない。

———今述べていることは全て当たり前の話だが、当たり前の話と云うものは得てして忘れがちになるものである。これは決して忘れていい話題ではないのだ。

*敢えて「拳を振り上げて」とは言わない。だがそう言いたくなる誘惑は理解して貰えると思う。


0257.
無論、天皇に人権は存在しない。「お前等は人間様じゃない」と日本国憲法に明記されている以上、要は大昔のエタ・ヒニンと一緒であって、宮中とは非差別部落を上品に言い換えたものである。唯ひとつ違うのは、天皇と云うのはスケープゴートではなくて逆スケープゴートだと云うことである。つまり、戦後と云う混迷の時代を、日本人が余り深く物事を考えずに突っ走って行く為の巨大な言い訳であったのである。
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