0213.
20世紀に於けるロシア音楽では、陶酔する時にはひたすら陶酔し、深刻な顔をして強張って緊張する時にはひたすらに緊張しっぱなしである。緊張しつつ陶酔が出来るのはドイツ音楽である。都会的な分裂したいびつさはロシアにはない。それだからこそあれらの諸作品はより純粋で、より美しい。だが「審美眼」とは往々にして錯乱した精神が持っているものなのだ………。


0214.
外界的な亀裂、殊に自分の出自に関わる、それに先立つ歴史は、一箇の精神と成る為には徹底的に利用すべきである。自分ひとりで陰を作り出すことは難しい。幸いなことに、世の中にはそれに便利な不幸が幾らでもうようよと揃っている。


0215.
見世物にする為の街を動かしている連中は下っ端の兵士達に似た傲岸さを備えている。実際、誰かの視線と云うものは、至上命令の様な絶対性を帯びているものだ。況してや、それにカネがかかってくるとなると言わずもがなである。


0216.
彼等が忙しく立ち働いているって? 毎日食べて寝てカネを稼ぐだけでは、それは無為と殆ど変わるところがない。


0217.
恐怖を人為的に創り出すことによって無害化し、耐性をつけ、飼い馴らしてしまおうとするあの無数の愚かな努力の数々………いや、私も人のことは言えないのだが。


0218.
何時も利用させて貰っている私が言うのも何なのだが、囚人服の様な制服を身に着けた朝早くから晩遅くまで忙しい宅配業者と囚人との違いは、前者が後者に比べて遥かに高級取りだと云うことだけではなかろうか。


0219.
或る日突然、全人類が、何々国人としてではなく、地球人として———おほん!………無論、いい意味で、であるが。この場合グロ−バル巨大企業なんぞも国家と同列である———振舞い始めた時のことを想像してみる………さぞ愉快な混乱が起こりそうではないか!
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