0190.
昔一度読んだ本を再読する。目に飛び込んで来る書き込みや傍線の余所よそしさよ! 曾て活字に生命を与え行間を躍動させたあの読者は何処へ行ったのだろうか? とてもではないが私は、この様な酷いインチキに自分との連続性を認めることなぞ出来はしない。


0191.
ことなり  =事成り:或る事象がひとつの事象として成立する
 =事也:或る事象がひとつの事象として同定される
 =異なり:或る事象Aが〜Aとは異なるものとして確定される
 (≒此と成り:或る事象が指示可能なものとして成立する。これは現前性と未名性のどちらを重要視するかによって、上記三者との包摂関係は全く異なるものとなるだろう)

ハイデガー辺りの「研究者」ならば、この駄洒落だけで少なくとも本一冊は書けるだろう。例えばこの場合、存在論的な次元に於ては「存在すると云う『こと』」は全て時間的要素の混入する行為と見做すことが可能な為、最終的には「もの」は全て「こと」に還元可能であるとしてよいが、これで扱える領域が大幅に広がる。また、当該事象の指示可能性乃至潜在的指示可能性を問題にすることによって、その事象の頭と尻尾について、またその一般性の性格について、いちいちあげつらうことが出来るだろう。


0192.
日本の軍歌は押し並べて本質的に負け戦の為の歌だ。あの悲愴なひたすらしつこい自己憐憫と自己陶酔を聴いてそう思わない方がおかしい。


0193.
私の愚鈍と凡庸とが、私を窒息させる。そしてその窒息に於ける強度の欠如が、私をしてまた窒息させる。そんな時に私に出来ることと言えば、シェーファー描くところのサリエリの如くに、精一杯頑張って心底神を怨むだけだ。


0194.
単に同一性から逃げることと、同定(即ち当該の事象以外の一切のものを顕在的乃至潜在的に否定すること)を拒否することとは別のことだ。後者はより大なる同定、同定されざる同定へと向かう道であり、前者は唯頭から布団を引っ被ってふて寝を決め込むだけのことに過ぎない。


0195.
何をするにもアリバイ作りが欠かせない。だが私がどんなアリバイを用意しているかは、語らぬ方がいいだろう。そのアリバイ作りについて、更にまたアリバイを用意せねばならなくなるからだ。物事は単純な方がいい。私は単純なものを好む。
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