0129.
彼等が何故、自らの無知の裡に安住していられるのか、私には想像もつかない。知識への、より広く深く高い世界への希求は飢えと同じことで、満たされなければ必ず死んでしまう。それとも彼等は生まれた時からずっと眠っていて一度も目覚めたことがない為に、エネルギーの補給を必要としないのだろうか?


0130.
恍惚とするだけだったら狂人にでも出来る。それに強度と持続性を与える為には、それを行うのはどうしても知性ある精神でなくてはならない。世界の深さに戦くことを知らぬ者は、直ぐにその深さを忘れてしまって、自分の見たものを一時的、例外的な状況と取り違えてしまうからである。


0131.
精神-存在としての我々には、万有との契約と人類への責務とが課せられているが、究極的にこの二者択一を迫られる状況と云うものはあり得ない。若しあったとしたら、何処かで何かが酷く間違っているのだ。


0132.
「世論調査」と云う名の怪物の唸り声を耳にする時、思わず身を震わせたことのある者は私一人ではない筈だ。中でも近年取り分けて恐ろしいのは、この国では確か社会科が義務教育の段階で必修になっていた筈なのだが、国民の大部分が、実際にはそれを理解しない儘卒業してしまっていると云う事実を目の当たりにさせられる時だ。言語や科学についての無知以上に、これは深刻な脅威と成り得る。


0133.
蛆———この世で最も教訓的な生き物。一匹の蛆が、時に万言に勝ることもある。


0134.
(こめ )は現存する最も効率的な食物のひとつではあるが、主食が正しく「主」たる栄養源であった時代と比べて、今日の我々の肉体の健康を保っているのは多様性、それもバランスの取れた多様性である。ところが先進国に於て欠乏に比べて摂食の過剰が大いに問題となっているのは、最近の繁栄に比べて我々の先祖達が過ごして来た欠食時代が如何に長い長いものであったかと云うことの紛れもない証左である。またこの一方で日に4万人が飢餓によって死を強要されていると云うこの途方もなく馬鹿馬鹿しい事実は、文明の進歩に我々の精神の進歩が追い付いていないと云うことの何よりの証左に他ならない。人類全体と云う単位で我々が適正なバランス感覚を獲得する様になるまでにはまだまだ長い長い時間がかかると云うことなのだろうか。我々にそれ程の呑気さは許されているものなのだろうか。
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