0102.
最小限のリスクで他者を出し抜くこと(この「他者」の範囲は時と場合によって如何様にでも拡大・縮小する)は進化の途上にある生物として生存の為の大原則であるが、立憲国家、言い換えれば明文化された言論を共同合意の礎に据え、それに一定の強制力を持たせ得る様な社会体制に於ては、これを原則のひとつとして持ち込むことは犯罪行為である。国家内の法に違反するからではない、それは人類のそれまでの努力を無にする行為だからである。正直であること、公正明大であること、とは間抜けの原則に聞こえるかも知れないが、これを故意に侵犯することは、合意を非個人的な形で外化すると云う大発明を成し遂げた先人達の偉業に対する冒涜であり、これが破られた時、個々人の集合としての全人類と云う概念は空疎化する。これを決して許してはならない。中でも司法はこれの最後の砦である。この原則に基づいて決められた手続きを遵守し、これを効率的に運用する積極的な精神を欠いた時、恐怖からの自由を可能にする文明は瓦解する。近代のあらゆる形態の制度に取り憑いていると言っても過言ではない官僚主義の病毒も、これに比すれば二次的な問題でしかない。


0103.
なるべく楽をして稼ぐこと、無駄な苦労はしたくないと思うこと、これは人類進歩の大根幹である。長期的に見て、直接的な生産に積極的に寄与しようとしない怠け者達が存在する意義はそこにある。星を見て歩いて井戸に落ちる者は大勢いるだろうが、星の動きを理解しようなどと考え始めるのはそうした連中から出て来る ものだ。だが哀しい哉! 彼等に対して世衆の95%が多少なりとも肯定的に心を動かされるのは、彼が投機に成功して大儲けした時か、或いは死んで直接的には迷惑でない存在になってから何かの本に名前が載った時か、或いはよっぽど寛大で同情的な気分になった(つまりは傲慢が度を越した)時に限られるのである。


0104.
劇作の観点からすれば、愚行を始める前に思いとどまって平和で安楽な生活を選んだ者よりも、散々愚行を重ねた挙げ句に大いに後悔する様な輩の方が受けがいい。知恵のある者は生きる前に死ぬことを覚えるものだが、彼等に華々しい栄光が伴わない理由の一端には得てしてこうした要因もある。


0105.
苦し紛れの言い訳でも、繰り返す裡に本気で信じ込む様になる連中は後を絶たない。歴史と云う名の愚行のアルバムにちょこちょこメモを書き込もうとするのは大方そうした輩だ。


0106.
人間にとって、希望は願望であり、方便である。
人類にとって、希望は意志であり、義務である。


0107.
ウォッシュレットは、抗生物質や上下水道と並ぶ人類の大発明だ。この言い方が大袈裟であれば少し控え目に言い直そう。それは安価でよく効く頭痛薬と同じ位人類の知性に対して貢献出来るものである、と。


0108.
世に憎むべき偏見は色々とあるが、最も憎むべきのは、「自分は最も偏見から自由である」と云う類いの偏見だ。
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