0006.
この国には哲学者がいない? ハッ! 何を今更判り切ったことを! それ以前に、全体を考える、全体について思いを巡らせる学問——いや「知と云う行為としての哲学」などと云うものは、科学と云うもの(———つまり『分化された学問としての科学』、と云う意味だが———)が登場して来た時点で既に存在し得なくなっているのだ。———少なくとも、一人の人間の身には。


0007.
 黒森「殆どの人間が、世界を既知の所与として、既に確定された一義的なものとしてしか語らない。不愉快だし、不快だね。時にはこれが我慢ならん。世界を受け容れることを説く者は多いが、世界を選択することを説く者はいない。何故だ? 不自由に語るバカは救い難いが、自分で自由に語っている積もりになっているバカは更に救い難い!」
 川流「不自由にと云うのはつまり?」
 黒森「閉じた世界でってことだよ! ヤスパースやサルトルの様な解り易いものを読んでも、ああいったおめでたい連中は自分に都合のいいところしか理解しちゃいないのさ!」


0008.
私が298円で9000gのオレンジマーマレードを買って来て、それを一緒に食べてみた時の感想。
 黒森「『オレンジマーマレード』!? 違うね、こりゃ『蜜柑の味付けをした糖蜜』って言うんだ。ううっ、甘い!」
 川流「安かったからね。………次は買わないよ」
 黒森「いや、これはもう買わなくとも、次は別のものでまた失敗するんだ。それが安価の魅力と云うものだ!!」


0009.
「十年も前になるが、はっきり覚えているよ、細川連立政権が発足した当時のことを。あれから何度も『カイカク、カイカク』と叫ばれてきたけれども、結局は、最初はみんなが騒ぐけれども、その裡馬脚が現れて、仕方がないから次の指導者にすげ替える、そんなことをずっと繰り返して来ただけじゃないか。現内閣だって、そりゃ最初の総裁選の時には小泉氏が勝てばいいとは思ったさ。でもそれは小泉氏を支持したからじゃない、他の2人の候補が余りにもダメだったからだ。だからまあ、ダメでもともと、上手くいったらお慰み、位の気持ちでいたんだ」
 私が「ヒドいなあ」と笑うと、
 黒森「だってその通りになっただろう? 一時は支持率が80%を越えていたと云うけれども、私は何故あそこまで小泉氏が支持されたのかサッパリ解らん。その前の森氏が余りにも不人気だったので、その反動が来たのかね。それにしても酷過ぎる。この国はゆっくり静かに沈んでいるのだが、面白いのは、そこの人間は未だに誰も騒ぎ方を知らないと云うことだ」


0010.
恋愛をする連中は気狂いである。『恋とは美しき勘違いである』———美しかろうが何だろうが、それが公民として誤った(或いは不適切な)現状認識の上に成り立っていることには変わりがない。
   学校では早い裡に、社会科の授業か何かで、「恋愛をしようとする者は、最低限刑務所暮らしをする覚悟位はしておいた方がいい」と云うことをしっかり教えてやるべきである。

 *私がここで「気狂い」と云う言葉を———もっとはっきりさせて言えば「キチガイ」と云う言葉を使ったからと云って、私の言葉の選び方が不用意だと云って揚げ足を取るのは止めて貰いたい。私はこの言葉を、差別的なニュアンスを残した儘で使っている。これは間違っても「精神薄弱者」等、現実の社会問題に具体的な対応物を持つ概念と同じ意味に用いられてはならない。「恋をする連中は精神薄弱者である」などと言い換えたなら、それこそ差別になるだろう。私が言いたいのは、一個の病理現象としての精神薄弱は、「キチガイ」と云う語が含意する「健常な理解の範疇を超えたもの」と云う外延からは区別されて然るべきだ、と云うことなのだ。
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