0002.
 黒森「ハッ、馬鹿馬鹿しい! どうして私が女なんぞと付き合う必要がある? あんな生き物に真面目に付き合っていられる程、私はヒマじゃない」
 川流「えぇっ!? でも、君には女性の友人も多いじゃないの。彼女達はどうなんだい」
 黒森「ああ、勘違いしてはいけない。彼女達は、『偶々性別が雌性であった私の友人』であって、『女』ではない」  川流「ヒドいなあ。それってつまり……」
 黒森「うん、君の言おうとしていることは分かる。それも違う、念の為。私が言いたいのは、『友人は男性だろうと女性だろうと友人には違いないけれども、色恋沙汰となると人間はふたつの性別に別けられてしまう』と言うことなんだ」


0003.
或る人と問答になった時、黒森は自分の本棚から本を取り出して来て、「読め」と言ったきりそれ以上その問題について説明するのを避けた。相手は「自分の言葉で話せ」と怒って問い詰めたが、黒森は小馬鹿にした様に鼻を鳴らしたきり、面倒そうに手を振り上げただけだった。
 後日そのことについて一度聞いてみたところ、次の様な返答が返って来た。
 黒森「そう云う下らないことについて延々と議論をしたいのなら、その本を書いた様な連中と思う存分やってくれってことだよ。実に察しの悪い連中だった。卑しくも大の男が論じるべき問題としてはあれは阿呆らし過ぎる。日常の井戸端会議でだらだらくっちゃべるにはうってつけの話題かも知れないが、論じるべき問題ではない。どうせ結論なんか出ないことは解り切っているんだし、最初に意見が食い違っていたのなら最後まで食い違うに決まって定まっているんだ。論者の性格によってどうとでも変わる様な議論に、大真面目に付き合う気分じゃなかったんだよ」


0004.
今だに我慢ならないのは、『宗教問題』とやらを論じる日本人達が、『宗教』と云う語によって呼称される現象が、恰も完全に既知のものであるかの様に扱って何の疑念も抱かないその素朴さだ。概念には歴史があり、その連想の生み出す広がりが紛れもなく一箇の政治方針に他ならないと云う単純な事実が、学校では全く教えられない。しかも教えられない者でそのことに気付くのは極く少数だ。更にそのことについて発言する者も少なければ、それに注目する者も少ない。彼等が『異常さ』を感じるのは、何か知ら所謂『世間を騒がせる』事件が起こった時だけ。しかもそれが全く見当外れなのだ。私にはそれこそが異常に見える。それは全く正気的ではない。


0005.
今だに我慢ならないのは、概念には歴史があり、言葉には政治があると云う極く単純な事実を、世の殆どの人間が閑却して顧みないことだ。何故、歴史の授業にでもそうしたことを教えないのだ? 連中はお膳立てされた道具立てを使うことばかりに気を取られていて、その成り立ちを問うことには無関心なのだ。いやそもそも関心を持つと云う能力がないのだ。
inserted by FC2 system