まだ涙流す余裕のある恐怖
  半月の下でひっそりと抱え



曇り夜枕潰して乞ひ希ふ
  釘付けの窓の外の宇宙を



枯れ果てゝ我と子スズメ薮の中
  高い陽照って死の熱を運ぶ



溶け落ちた白い太陽の下にゐて
  幾重にも流る雲を憎みて



カァンと輝く入道雲の
  重なる影の反吐の出る(ふち )
   この生活の中にぴっちり
     閉じ込められた我夏を憎む



疥癬に罹ったやうな蝉の背を
  のそっと見送る腐って爛れる



入り交じる(あか )と黒との腐汁空
  灼けた鉄棒をぎゅっと握り締む



ふと残る雲の切れ端陰を帯び
  日暮らしばかりがやけにうるさい



凝っと見る死んだ私の腐れ肉
  遠くなりゆくフレームと正気



静かな木陰に脇目もくれず
  雲を追い駆け丘ひとつ越ゆ
    流れ異なる大造形の
      天晴れ青の台座に映ゆる
        吸い込む息に緑は混じり
          肌を撫で行く風そよぐなり
            きらきら光る湖面さざなみ
              明瞭な「然」我を消し去る
                あゝのびやかなこの戦慄の
                  歌を聴くなり両手広げて
                    崩れ去り行く昨日の腐肉も
                      天へ溶け行く白く宇宙へ
  思い悩むな小さき人よ
    君の過剰もほんの一滴
      目を開き感じ喜び叫べ
        この存在を享受し尽くせ
          美しい波に乗って戦け
            いざ変容の生を味わえ
              この生まれを生きよ 生きよ
 



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