斜断機の音を聞きつつ古本屋
  街へと向かふ硬貨握り締む



春風 (しゅんぷう )の哄笑高く枝揺れて
  遠き雲間の幻魔に手を振る



反吐が出る程の近さで牙を研ぐ
  気取れぬやうに無言で背く



目を覆う玄の脈打つ赤い潮
  破壊と生成同時に息吐く



フリーパス在来線を乗り継いで
  降り立った先の小さな墓標
    無人駅から鞄引き摺る



虚焦点巡り回ってつむがるゝ
  不在の言葉果て無く続き
    謎解き自ら謎と成り行く



泥濘の中に沈んだ笑い顔
  降りしきる雨に影見失い



ためいきを空に溶かして我開く
  疎外ばかりの眼差し連れて



雨の前重い匂いとフキノトウ
  ぎりぎり咬んだ唇苦し



無人の夜疲労の火照りと古本と
  空腹の我と谺する大気



inserted by FC2 system