後ろにも目があるやうな気懈さに 喉掴まるゝ醜き秋の日 |
飽きが来てペンを落としてその儘に 転がし放っておける寝室 実存詩集は白紙が続き |
全身が胃腸にめり込む湿気た朝 漂白の景色痛んで広がる |
誰も来ぬ図書室の奥で独り読む ハイネの詩集の焼けた背表紙 |
人類の知的遺産もこの 憎しみ覚えて図書室に眠る |
石筍の滴を見たり地底湖に 何も眠らぬ空漠広がる |
釣り上げた姫鱒掴む灼熱の 温度を持った人間の手で |
カラカラに乾いて裂けたタイヤ見る 出自を思ふこの宇宙での因果を |
星の下割れたる壷の中に稲 幾万年の瞬き過ぎて |
送り風受けて散らばる思い出に 禊ぎ行う手立ては無くて |