サイレンを鳴らして歩く愚者ひとり
  歌を聞く者無くて笑へり



立ち読みを責める本屋の腕時計
  この三時間で客は我のみ



真白き顔を延ばして開く
  鬼が来たりて言葉を放つ
    幻滅加算す言葉を放つ



多数と多数を足して素数で
  割って暫く更に続けて
    虚数を二乗し二乗し掛けたら
      鏡の裏を覗いてみよう
        可笑しな(いち )のキュビズムの肖像



妖炎の立つ朱空 (あけぞら )に雀の声
  谺が鞭の如くに響く



窓に歪んだビル映し
  のっそりと立つ黒いモノ
    誰が排泄していったのやら



薄い空捲って立てるアンテナに
  影こそ重要なのだと告げる
    稲妻の後の更に濃い闇



ベッドの脇の隠れた扉
  こっそり開き闇の中
    右手伸ばして忘却を取る



薄ら白いリボンを播いたビルディング
  何の冗談か裸を晒す



懐につまらぬ恥辱隠し持つ
  ポケットの多い服を着た我



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